魁・どろんちょ工業大学

第一の巻 「 錆 」

はじめに

鉄は大気中にある限り錆びる。
鉄の分子が酸素分子と結合して、酸化する。これが錆。

鉄は錆びると、鉄が本来持っている硬さや強度がなくなり脆(もろ)くなる。
そうするとポロポロと崩れ、やがては原形を留めないくらい朽ち果てる。

ステンレスやアルミニウムはどうだろう?
これらは錆びないと思ってる人もいるだろうけど、錆びる。酸化する。
ステンレスは鉄にニッケルやクロム等を配合して作られてるわけだが
大気中では非常に不安定な物質で、ものすごい勢いで錆びようとする。
これが功を奏して、表面にすばやく酸化皮膜を形成して酸素との結合を立ち切り
腐食を防いでいる。
ステンレスは種類が沢山あって、耐腐食性能はそれぞれ異なる。
まったく錆びないと思っていたステンレスなのに、材質によっては
外に放置していたら雨上がりに赤錆が浮くなんて事もある。

アルミニウムは、地中にあるボーキサイトを採掘して融かして
電解アルミナにしてから、電気分解することでアルミニウムとなる。
(詳しい精錬方法は、わかりません)
アルミニウムにも種類が沢山あって、普段アルミと言ってるような身近にある材質は
純粋なアルミニウムに銅やマンガン、マグネシウム等が配合された合金である。
そのためアルミ合金というのが正しいだろう。
ジュラルミンは、従来のアルミ合金の強度を増したりするため改良された
 ハイテク素材の総称(A2000系) 〜 アルミ+銅+マグネシウム系合金 (AL+Cu+Mg系)
 更に亜鉛(Zn)を多く配合し強度を増したものを超々ジュラルミンという(A7000系)

なんだかんだと言ったけど、一般的にはそれら全てアルミと呼ばれている。
このアルミという材料は、ステンレスと似たようなもんで、
自ら表面に酸化皮膜を形成して、腐食(酸化)するのを防いでいる。
この酸化皮膜を作って酸化を防ぐ働きを人工的に行ったのが「アルマイト処理」である。

以前アルマイト処理といえば白色ばかりであったが、
近年は黒・青・赤・金色などの着色をするものがでてきた。
それぞれ、黒アルマイト、青アルマイト、赤...と呼ばれる。

アルマイト処理されたアルミ材料にバフがけ(鏡面研磨)などの加工をすると
アルマイトの皮膜が削り取られる為に、そこから腐食が進行しやすくなる。
その為、バフをかけた場合は硬質クロムメッキを施して腐食対策を
するのが望ましい。
余談だが、アルミは電気を流す材質だが、表面にアルマイト処理を施した場合
電気は流れなくなる。
ヤスリやバフがけ等で、アルマイト皮膜を削り落とした場合、再び通電する。

話の本筋からかなり脱線してしまったので話を鉄に戻そう。
鉄の錆は、水や塩分が付着すると錆の進行が早まる。
これは、水の中の不純物や塩分が電解質であり、酸化(電解)反応が促進される為。

鉄の腐食を防止する方法として
めっき、蒸着、塗装、酸化皮膜、グリス等の油脂による皮膜形成などがある。
それらによって、鉄の地肌と酸素のふれあいを遮断し酸化できないようにする事で
錆を防ぐ事ができる。

これらの対策をしたにも関わらず、メッキや皮膜の剥がれ、塗装キズなどにより
もし、錆びてしまったら...

がんばって錆を落とす他あるまい。
ヤスリやサンドペーパで表面を削ったり、真鍮(しんちゅう)ワイヤーブラシで
ゴシゴシ擦ったりして錆を完全に落とさないと、金属の腐食は進行する一方である。
再メッキ・再塗装を前提として、サンドブラスト(機械的に研磨粒子を吹きつける)を
行って金属の表面を磨くことを除いて、一般的に錆落としは労力を必要とし、
工具が入っていかないような狭い所は無理がある上
他の部位の塗装・メッキ等に悪影響が及ぶ可能性もある。
錆を落とすって大変だなぁと思ってしまうんだけど、便利な世の中になったもんで
思わず困ってしまうような錆を簡単楽々に除去してしまうケミカル用品が販売されている。

だけど...
それらは、ほんとに使えるのだろうか?などと疑問が湧く。

ならば、実験して検証してみよう〜。


第一章 ホームセンターでよく見かける錆取り剤

今回用意したサビ取りケミカル2品

(写真左)サビアウト/エーゼット社製
       成分:界面活性剤、リン酸(9.75%)
       110g 298円

(写真右)サビ落としセット/ソフト99社製
       成分:界面活性剤、リン酸(29%)
        85g 680円

この2品に共通する成分はリン酸。 リン酸は幅広い分野で使用されている。
調味料などの食品添加剤や農作物の肥料、そして工業分野では金属の錆の除去など。

リン酸を鉄に塗布すると、表面の錆を溶かした上に鉄表面にリン酸塩皮膜を形成する。
このリン酸塩皮膜は、前に書いたステンレスの酸化皮膜やアルミのアルマイト皮膜同様に
密度の高い皮膜で、空気や水分を通さない。そのため錆の発生を防ぐ事ができる。

鉄の表面にリン酸塩皮膜を付ける処理をパーカーライジングとも呼ぶ。
パーカーライジング処理を鉄に施すと、表面が鈍い灰色で梨地(サラサラした感じ)になり
塗装の乗りが良くなる上に、防錆としても効果があるので広く応用されている。
身近な電化製品や自動車ボデーのパネルなど。

リン酸と鉄の反応と関係を説明したところで、さっそく錆取りの試験をしてみよう。
試験片は、かなりガンコに錆びた釘を用意した。


試験は、この釘にマスキングを施し、用意したケミカル剤2品を塗布する。


写真の通り、左側にサビアウト、右側に錆落としセットを塗布し
このまま10分間放置した。


10分後 ウェスで軽く拭き取ってみた。
 徐々に錆が溶け出して、金属の地肌が見えてきた。
 まだ錆が取れたとは言えない。各々もう一度塗布し、また様子をみてみる。


20分後 写真はピンボケておりますが
 2つのケミカル剤の錆落とし性能に差が出てきた。
 リン酸の含有率の違いだろうか?
 再度、試験片に塗布し更に10分間放置した。


30分後  今回の試験はこれで終了で、マスキングテープを剥がした。
 左側/サビアウト、右側/錆落としセット
 試験片があまりにも酷く錆びていたせいなのか?芳しい結果が出なかったのだが
 確かに錆は落ちている。
 ここまで錆びついた素材の場合は、前もって真鍮ワイヤブラシなどで
 大雑把に錆を落としてから、最後の仕上げに錆取り剤を塗布した方が良いだろう。
 アルミやステンレスの酸化皮膜と異なり、鉄の酸化した錆は多孔性で
 水や空気が侵入する。
 その為、錆が少しでも残っているとそこから腐食が進行していくのである。
 
 <結論>
 この錆取り剤2品は、比較的軽い錆に有効と思われる。
 しかし、かなり進行してしまった錆には前処理としてワイヤブラシ等で錆を落とし、
 仕上げに残った錆を溶かすことと、リン酸塩皮膜を作ってやる目的
 塗布すると良いだろう。

第ニ章 評判が良い(?)錆取り剤


花咲かG サビとり(鉄用)/ファクトリーミルウォーキー社製
       成分:精製水、リン酸、酸化防止剤など
       300ml  3000円

少し値段が高いけど、いろいろな方面から
かなり高い評価を耳にします。
こちらもリン酸系のサビ取り剤。

リン酸というと、植物の成長を促進させる働きがある事から、
それに引っ掛けたダジャレなのか?
「花咲かG」などとユニークな名前が付いております。

あまりにも高い評価を耳にするので、気になって
こちらも実際に錆び取り試験をしてみた。


試験片は第一章で使用したものと同じ大きさの釘で、
錆びの進行具合は同じです。


花咲かGサビとりを筆で試験片に塗布し、10分後の写真。
これは目で見ててあっと驚くぐらいリアルタイムで錆が落ちていくのが判る。
見てて楽しいです。


再度塗布し、試験開始から20分後
最初の10分からはあまり変化が感じられない。



再度塗布し、試験開始から30分後
これまた最初の10分からはあまり変化が感じられない。
この錆取り剤は、どうやら最初の10分が勝負のようだ。

<結論>
今回もまた試験片の錆が酷すぎたのか?
驚く程の成果は出なかった。
第一章の錆取り剤と同様に、ここまで酷い錆を取る場合は、
前準備としてワイヤブラシ等で大雑把にサビを落としてから
仕上げに使うと良いだろう。

後日、バイクに浮き出た赤錆を見つけ、この「花咲かG」を使用したのだが、
このときは、賞賛に値する程パーフェクトにサビを落としてくれた。

第三章 究極の錆取り剤!?

噂では、家庭の流しや風呂・トイレで活躍している「サンポール」が
錆落としに絶大な効果があるらしい。
サンポールの成分表を見ると、塩酸9.5%と書かれている。

これまでの試験に使われたリン酸系錆落とし剤は、弱酸性〜中性ということで
比較的 取り扱いが易しいかったが、強酸性のサンポールは取り扱い注意。

サンポールを使うという事は、正に酸洗いそのものである。


今回使用する試験片もこれまでの試験片と同様で、激しく錆びた釘。
これをサンポールの原液に30分間ドブ漬けしてみた。

30分後
これまでの試験とは、あきらかに違う結果となった。写真を見ての通り。
酸洗いすることにより、試験片は丸裸の鉄となった。
しかし、このままでは錆の餌食になるのが条件によっては分単位の問題。
そこで、この状態の試験片に第一章で登場した「錆落としセット」を塗布して
リン酸塩皮膜を形成させた。
この事で、試験片の防錆処理がされて耐腐食性が向上したことになる。

試験片に水をかけて数日の間、放置したにも関わらず
試験片は錆びずに、上の写真の状態を維持している。

ここでふと思い出したのが、
2〜3年前に当HPで公開したSRXの錆びたフューエルタンクの錆落としレポート。
協力者の提供された情報元にレポートをまとめてUPしたのだが、
当時使用したタンクの錆取り剤の商品名が思い出せない。
内部は酷く錆びていたのに、あまりにも綺麗な銀色に戻り感動したものである。

確か商品パッケージは、錆取り剤と防錆コーティング剤の2剤に分れていた。
今思うと、サンポールのような塩酸系の錆取り剤と、リン酸皮膜を形成する
リン酸系の防錆剤だったと考えられる。

この推理が正しいとすると、サンポール+リン酸系錆取り剤も
かなりの成果が上げられる。

この第三章での試験片は見ての通り、素晴らしい結果を出したが
今後の錆の進行がどうなのか? 様子を見ていこうと思います。

<結論>
サンポールは噂通り凄かった。しかし、すぐ錆が発生するものと思われ
急いで塗装するなり、防錆皮膜の形成をするなり、めっきを施すなどの
作業が必要となる。
また、サンポールを使用する際は
塗装面やプラスチック部品などへの悪影響が考えられる上、強酸性なので危険。

もし自分でやってみようと思われた方がいましたら、自己責任で行ってください。

さて、私は心の錆落としに一杯酒をいただくとしよう。

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